あきらめないで口から食べること

〜介護予防は何を目指すのか〜

柏歯科医師会 大石善也   

 介護保険がはじまり5年がたちましたが、この5年間の間に介護度1の人は介護度3に、介護度3の人は介護度5にほとんどの方が移行しております。

 今後は、どのような介護予防を行い介護の重度化を防止するのかが重要です。また、団塊の世代を含む高齢人口が一度に介護保険・国民健康保険に流れ込むと、制度の破綻の危機も考えられます。介護予防プランを作製するにあたり、今後増え続ける医療費・介護費用を効果的に削減して安心した老後を送るためには、虚弱高齢者や要支援・要介護1のグループ(17%)を要介護2〜5のグループ(8%)に移行させない戦略が必要であると思います。

 では、日本人の死因と介護保険の利用者の原疾患を比較してみましょう。死因は、第一位:癌 第二位:心疾患 第三位:脳卒中 第四位:肺炎ですが、介護保険を利用する方は下記のような基礎疾患がありその重度化とともに附随しておこる誤嚥性肺炎の繰り返しにより、ほとんどの方が死に至ります。

【介護保険利用者の原疾患】
  1. 脳卒中(11%の方に嚥下障害という後遺症が起こります)
  2. 高齢による衰弱(老化により、飲み込みと咳の反射が鈍くなります)
  3. 転倒・骨折(義歯をはずすとつまづきやすい。パワーリハビリ)
  4. 認知症(食べている時に眠ったり、食べていることを忘れます)
  5. パーキンソン病(舌から喉への送り込みと嚥下力が低下します)
 つまり、死因と介護の原因は違い介護度4・5の時期にはほとんどの方が、 うまく食べれなかったり、経管栄養や胃瘻にて終末を迎えることになります。

【誤嚥性肺炎とは】
  1. 食べている時の誤嚥(脳卒中後遺症で喉に麻痺がある場合)
  2. 寝ている時の唾液誤嚥(唾液中の細菌が肺炎を引き起こす)
  3. 胃、食道から逆流による誤嚥(舌が黄色〜茶色に着色します)
 この3つのなかで1番多いのは、2の唾液誤嚥による肺炎です。65歳以上の約半数の方が夜眠っている間に唾液を誤嚥しており、肺炎での死亡の92%が65歳以上となります。要介護度4・5の方には就寝前に時間をかけて口腔ケアを行うことが重要となります。近年、口腔と喉と肺の細菌がDNAレベルでも一致しており。1週間に1回歯科衛生士が専門的な口腔ケアを行う事により、誤嚥性肺炎の発症を半分にまで抑制できることが判りました。介護予防の方向性のひとつに口腔ケアに対するアセスメントをケアマネジャーさんが再認識することも大切と思われます。

 この誤嚥性肺炎の予防に関しては、講演やまたは紙面にて後日ご紹介させていただきますが、柏歯科医師会では『地域密着型栄養サポートチーム』を作ることにチャレンジしております。この支援は主治医が中心で縦の繋がりを主とする従来の医療体系から、職種間の壁を取り払って横の繋がりを重視する医療体系、いわゆるチームアプローチを作ることにより要介護者を支援するシステムで、多職種が連携をとることにより、医療と介護と福祉がミックスされた支援を考えております。本年度より多職種合同の食介護研究会(ごっくんちょ)を行い楽しみながら情報の双方向性と収集をしております。

 平成19年度完成予定の柏市総合的医療福祉施設に栄養サポート相談室を開設して研究会の情報を集約して、市民からの相談と各種疾患の予防と摂食・嚥下機能療法の拠点にしたいと考えております。

 さて、平成18年度介護保険新予防メニューに口腔ケアが新設された理由は皆様もご承知のように、『口腔ケアで気道感染を予防する意識』を要支援者に意識づけさせるために導入されます。また、このライフステージの方には口腔周囲筋を強化して咀嚼力を回復させることにより低栄養や各種生活習慣病を予防することが目的です。そのために歯科衛生士法まで改定して3ヶ月間(12回)施設に歯科衛生士が訪問して、口腔清掃や口腔周囲筋を強化する体操や口腔ケアの意義をグループデイスカッションします。その間2回栄養士と理学療法士と合同で行う予防メニューです。口腔ケアを実施する人数は少ないですが施設や介護関係者に『誤嚥性肺炎を口腔ケアで予防』することや、経管栄養や胃瘻の方ほど口腔ケアが重要であることや、介護度2〜5の方の口腔機能を回復するリハビリというものがあり、口から食べることをあきらめずに胃瘻時期を延長させたり、万一胃瘻のお世話になっても少しずつなら口から安全に楽しく美味しく食べることができるリハビリテーションがあることが理解できれば、生きる意欲も改善される良いきっかけになると思います。そして、肺炎にかかる辛さから解放され、さらにその医療費も抑制できることが判ると考えます。

 ケアマネージャーさんの知識とアセスメントの選択力はダイレクトに要介護者の人生を左右します。現在のケアマネ資格試験における口腔関係の出題比率からみると、お互いに地域で交流を増やし連携を取ることが必要であると考えます。食事・排泄・入浴という3大介護のなかで一番時間をとる食事を向上させる事は、排泄にも影響します。また要介護者における一番の楽しみである食事は生きる意欲やヘルパーさんとの精神的なつながりに多くの意味があると思われます。 今後の介護を取り巻く環境に、私たち(歯科関係者)でお役にたてることがあれば協力いたします。要介護者が本当の意味で良い人生が送れるように、地域密着型栄養サポートチームに御理解のほど宜しくお願い致します。

 これは、柏市のケアマネージャーさんの会報に掲載した記事です。今後の介護保険に関しては、ケアマネージャーさんの質や知識力が問われる時代になります。

【口腔機能の向上に対して観察点】
  • ケアマネさんにとっては当たり前の事ですが、『在宅訪問歯科における訪問歯科衛生指導(居宅療養管理指導)は給付管理対象外のサービスであり、介護保険の限度額とは別枠で受けられます。』患者さんや家族の方はほとんど知られていません。
  • 介護度4・5の高齢者の約半数がすでに誤嚥性肺炎にかかっております。
  • ご家族が口腔ケアに前向きであれば、歯科衛生士によるケアをうけたほうが良いと思われます。
  • まず、舌垢をみてください。白色や茶褐色の舌であれば就寝時に細菌が肺に侵入します。この時、清掃すれば良いと考えずに、唾液の量や舌の運動が低下している状態であると考えてください。我々元気な人は、丸一日舌垢が付くことはなく、元気であれば清掃しなくても飲み込んでいるはずです。
  • 次に、グラグラした歯があるかどうか、ちゃんと入れ歯が入っているか、聞き取りでも良いですし、できればちょっとお口の中を覗いてください。食物残渣があり汚れているようであれば、ご家族に誤嚥性肺炎の危険を教えてあげてください。
  • 次に、食事の際に食べこぼしや時間がかかるかどうかをきいてください
  • また、水や汁物や薬を飲むときにむせたりしないかどうか聞いてみてください
  • 食後に声がかすれたり、咽頭に残留感が有る場合はかなり重度であると考えてください。誤嚥性肺炎による発熱は慢性炎症ですので、平熱より1度高くなるか、あるいは熱がほとんど出ない場合が約半数に認められます。原因の追及されない、見落としやすい肺炎として有名です。
  • 口から食物をとっていない方。かならず口腔ケアが必要です。誤嚥性肺炎にて早期に死期が訪れます。胃ロウの方の口臭を臭ってみれば理解できます。

問診によるもの: 要支援・要介護1等の自立度の有る方】
 口は渇きますか?
 口臭はきになりますか?
 食欲がありますか?
 食事は楽しいですか?
 食事にかかる時間がやや長くなりましたか?
 食べこぼしが多くなりましたか?
 ブクブクうがいがやりにくくなりましたか?
 ややむせやすくなりましたか?