パーキンソン病患者さんを受け持つペルパーさんへ

 

〜誤解の多い病気〜

大石 善也

 パーキンソン病患者に関わる介護者やヘルパーさんには、さまざまな誤解が生じます。
病気を正しく理解して、介助することが必要と思われます。
【日常よくある誤解: 理由があります】
さぼってる    : 身体が急に動かなくなる
依存心が強い   : 出来ないから頼んでいる
人がいないと動ける: 精神的緊張がなくなるから
甘えている気がする: 自分で出来る事はしている
よく介助を要求する: 見られている緊張感で動かなくなる
表情が乏しい   : 顔の筋肉がこわばるため

 ではなぜこのような症状が現れるのでしょうか?
パーキンソン病は脳の内の神経伝達物質ドーパミン(やる気を起こす作用)が不足する病気です。根本的な治療法がないため、薬物対症療法が行われます。



しっかり咀嚼して、おいしい食事をするとドーパミンも産生されます。
ドーパミンが不足すると自律神経と運動神経に影響がでます。

【自律神経への影響】
 ・動作が少なく遅くなる
 ・体温調節ができなくなる
 ・暗いところで目が見にくくなる
 ・よだれや汗が出る
 ・心拍数が低くなる

【運動神経への影響】
 ・動作が少なく遅くなる
 ・運動機能障害
 ・手足や身体がまがる特有の姿勢になる
 ・筋肉が固くなる

 健康な人でも『結婚式でスピーチをする時』や『多くの人の前で講演を初めてする時』は緊張して、うまくしゃべれなかったり、動作がぎこちなくなったりしますね。パーキンソン患者さんは、病気のためにいつもそのような心理状態や精神状態になります。しかしながら、日常の介助にて『暑いからクーラーを付けてください』と言われてクーラーを付けるとすぐに『寒いからクーラーを切ってくれ』と言われれば『この人わがままな人よね』と思ってしまいます。つまり、自律神経が不調で本当に体温調節が出来ないのです。

 では、パーキンソン病の特徴を見てみましょう。
筋肉が固くなる: 固縮】
    曲げようとする筋肉のほうに強く現れるため、前かがみの姿勢になります。また、顔の筋肉が固縮して無表情になり、口・舌・喉の筋肉が固まり、食べる動作が遅くなったり、うまく飲み込めなくなったり、構音障害が起こります。足首だけは伸ばすほうが強くなるので、かかとが浮いてつま先立ちになります。その姿勢を保つために、前かがみになったり、ころびやすくなります。

動きが少なく遅くなる: 動作緩慢】
    身体を動かすときの最初の動作がなかなか出来ません。身体を動かすのに大変な意志と努力が必要です。重度になると姿勢や座位を保てなくなります。手を開いたり、腕を伸ばす事も本人にとっては非常に辛い動作になります。

手足がふるえる: 振戦】
    何もしていない時にふるえが出て、何かしようとする時に止まったりするので、他人からみれば、おかしい感じがします。片方の手から出始めて足や顎もふるえてきますが軽い場合は、日常生活はできます。

* 特異的な機能低下が『誤解』されやすい原因です。
    真っ直ぐ歩くことはできるのに、曲がることが難しくなります。つまり身体をひねることが出来なくなります。また、歩幅の小さく手が振れなくなります。ベッドでは寝返りが非常に難しくなります。このように、真っ直ぐ歩けるのだから曲がる事が出来ないのは、依存心が強いと思われがちです。
【パーキンソン患者さんの姿勢】

* 腰や背中、首が曲がり前屈みの姿勢になります。
* 腕も曲がり、脇がしまったようになります。
* 膝が曲がり左右がくっつき、足と足の間は開いて内股になります。
* 手首は上に曲がり、手はにぎったようになります。

実際に私が往診してそのようなお話を聞いてあげると、ぼろぼろ泣きながら訴える患者さんが多いので正直いって『精神的に本当に辛い想いをしているのだなあ』と思います。

【パーキンソン患者さんの歩行介助方法】
軽く手を置いてもらい、もう一方の手で腰のベルトを持つ


*両手を持って介助するとバランスがとれずに危ない介助となります


では、どのように対処すれば良いのでしょう。

 まず第一に上記のような話をして本人が精神的に辛い想いをしたことがないか?聞いてあげてください。介護度3以上の人は、心を開いてうちあけると思います。ヘルパー業務は大変な仕事ですが、たぶん受け持ちの要介護者に心から『ありがとう』と言われたときに充実感があると思います。聞いてあげるだけ(これが一番効果あります)で、コミュニケーションは十分とれると思われます。

 次に出来る事のみをやってもらいましょう。つまり寝返りは介助するが、真っ直ぐ歩くことや階段は自分で昇ってもらいます。パーキンソンロードを作ると、半数ぐらいの人が歩けるようになるそうです。これはガムテープを階段と同じくらい(25pくらい)進行方向と直角になるように貼ります。家の中のトイレや台所まで歩行する経路に貼ると曲がる以外は歩きやすくなります。そして口でイチ、ニ、イチ、ニと言いながら足を出すのも効果があるそうです。

【始めの一歩が出ないのです】


【散歩中に足が出なくなったら】


 私の講演で一番良く質問されるのは、『食事介助をどうすればよいか?』が多いのですが答えは、薬の時間を調節する事です。長く薬を飲んでいる方は薬がきいいている時(服用1時間後)ときれる時の運動機能は別人のように違います。この薬が効いている時間に本人にとって一番優先順位の高い事をしてもらいます。それが運動(入浴)であったり、排泄であったり、食事である場合に選択してもらいます。パーキンソン病の薬は1日量さえ変わらなければ、服用時刻は調節して良いものがほとんどですので、かかりつけ医に日常生活をよく相談してください。つまり、薬の効いていない時間に食事介助をしても飲み込む機能が低下しているため、うまくいきません。介護食欄を参考にして、汁物→ご飯・お粥→主菜→副菜の順番で飲み込みやすくするのも良いと思われます。

 もう一つ、重要なことはパーキンソン病が重度になると嚥下(飲み込み)障害がおこる事です。つまり、死亡原因のほとんどが誤嚥による肺炎・低栄養なのです。  食べにくくなるだけではなく、口唇・舌・喉の筋肉も固縮してきますので、誤嚥・窒息が起こってきます。そのために、なんだか元気がない、微熱が続く、食事中にむせや声がかすれてくるような初期症状が現れたなら、誤嚥性肺炎がすでに発症しております。 パーキンソン病患者の介護度4・5の方のほとんどが当てはまります。



 そしてさらに重度になると、喉がゼロゼロしてきます。これは、口の中の唾液や痰が飲み込めなくなるために起こります。朝方にゼロゼロして目が覚めたとか喉がゼロゼロしている患者さんは要注意です。このステージになると、起きることや座位も取りにくくなり、すぐにベッドを水平にしてくれ、といいますが食後すぐは逆流に危険がありますので、やはり薬の一番効いている時間の食事がベストです。そして就寝時には、本人には知らせずに5度からゆっくりと10度まで(約1ヶ月ぐらいかけて)ギャッチアップしてください。人間はしばらく慣れると水平と10度の差は感じなくなります。すると朝方の痰のからみが少し楽になります。また、ペルパーさんが喉の痰を取るときにティシュで取るのはやめたほうが良いです。より後方に痰が流れ込みます、スポンジブラシかくるリーナブラシ(口腔ケアグッツ欄を参照)を使用すると効率的です。

 進行性病変なので、介護度4・5からリハビリを初めてもなかなかうまくいきませんが、早期から嚥下体操(ごっくん体操〜自立度の高い方〜)を習慣化したり、食事の工夫(介護食・トロミ)が必要です。個人的にはハーモニカを遊びとして取り入れる事が進行予防に良いと思います。精神的負担をかけずに、口唇閉鎖・頬・舌・肺活量・咳・鼻咽腔閉鎖にすべての訓練としてベターであると考えています。また、風船をふくらましてバレーボールをすることにより、上肢・肺換気量・固縮の防止効果があると思います。

 パーキンソン病は太極拳のような、ゆっくりとした動きよりもサンバテンポの早い動きを訓練するほうが効果があります。

 病気の進行速度に関してですが、変動が激しいのがこの疾患の特徴です。
・季節や天候が変化した時
・疲労
・精神的ストレスや緊張感
・薬の影響
 よく楽しい事をしていると、いつもは薬を飲む時間なのに体も動く事がありますね、楽しいことをする事とドーパミンは関係があるからです。パーキンソン患者さんには、訓練というよりはリクレーションゲームのようなプログラムが必要です。

 一日で激しく変動する場合もあります。そしてもっとも注意する事は、放置すると急変して、ちょっと前までなんとか歩いていた人が急に車いす生活を送る場合もあります。まだ自立度が高い人は、意識的に散歩や体操やゲームをすることが良いでしょう。昔に覚えた運動や体操はドーパミン不足による影響を受けにくく、早期に嚥下体操をしたり、精神的なストレスをかけない事が大切です。

 この病気の患者さんの嚥下障害を受け持つ時に、介護をする方に最初に伝えるのは 『大変だと思いますが、本人の訴えに、素直にすべて受け入れてください』と言っています。大切なことは精神的な負担をかけないことと、急変したら介助量を増大することです。家族やヘルパーさんには大変な労働ですが、事業所と相談して早期に対処してあげてください。