口腔機能の向上について

〜歯科衛生士・看護師・言語療法士さんへ〜

〜保健師・社会福祉士・ケアマネさんへ〜

〜地域事業所・介護職員・ヘルパーさんへ〜

 日本の高齢化は急速に進んでいます。2015年には団塊世代が高齢期に入ることから、厚労省も介護予防にシフトして各市町村の地域包括支援センターを中心とした『介護予防』を展開していきます。今回の改正で関係各所は膨大な仕事が増加して、事務処理的な事業になることが危惧されます。しかしながら今回の改正の主目的は『地域でお年寄りが元気に最後まで住み続ける』ことであることを忘れてはいけません。そのために認知症を含めて、運動機能・栄養改善・口腔機能の向上が新予防メニューとして新設されました。

 現在、要介護高齢者の『食環境』と『口腔内状態』は先進国のなかで、最悪と言われています。『年だからしょうがない』『口の中まではみられる時間がない』という現実は施設・病院で勤務されている方はご承知のことだと思われますが、口腔機能は要介護高齢者や疾患急性期から介入すると、効果的な介護予防が期待できます。特に窒息・風邪・インフルエンザ・肺炎予防が結果として出てくるとともに、高齢者の表情やおいしく食べる意欲が改善されます。私たちの親や自分自身も将来介護が必要となった時には、食事は1番の楽しみとなり、現在の状況(キザミ食・流動食・不潔な口腔環境)で満足できる方はいないと思われます。

 今回の予防メニューは3年間実施され、全てが電子媒体として処理・評価判定されます。例えば、口腔機能の向上と栄養改善をしたグループが単独と相違点があるかというような検索がされます。また、地域支援事業にて今後事業所を利用される地域高齢者も、口腔ケアが介護の基本的なサービスとして十分認識・定着される流れとなりますので、介護報酬の低さやケアマネさんの事務力にもご苦労があるとは思われますが、なにとぞ少しずつでも導入していただきたく思います。

 今回、実施にあたる歯科衛生士等(看護師・言語療法士を含む)は、このプログラムの中心的存在ですので、口腔ケアの意義を十分理解して信念をもって施行していただきたいと思います。介護予防は将来起こる障害を予防するために行われます。この障害とは寝たきり等の不健康寿命後におとずれる不健口寿命、つまりうまく食べられない方や口から食べられないで生きている期間が現在男性で3年、女性で7年近く存在し、今後胃瘻増設により増加してきます。つまり人間の最後をどのようなQOLで全うできるかを左右する事業であることを常に考えてもらいたいと思います。生活習慣病の延長線上には『誤嚥性肺炎』を繰り返すという事実もまだ社会に認知されているとはいえません。今回介入する3ヶ月後に利用者がどのようなメリットが得られ、知識教育がされるかを考えて実施すれば、かならず良い結果が生まれると思われます。

 介護に初めて参加する歯科衛生士は今まで外来医院内で勤務していた職種なので介護は新入生です。また介護職の方は歯科の分野では新入生であります。どうかお互いが仲良くして、お互いの仕事のつらさや内容を分かち合ってほしいと思います。そのあたりもこのプログラムが成功するかどうかの重要な要素です。今回、歯科衛生士は軽度な方に対して介入していきますが、現場で聞きたい情報とは下記のごとく重度な方への現実的な質問をされると思われます。
  • 食事姿勢を正すように言われたが、背中の曲がった人にはどのように対処すれば良いですか?
  • 義歯を入れないで食べている方が沢山いますが、流動食やキザミ食なので入れなくて良いと思うのですがどうですか?
  • 事前アセスメントでムセは無かったのですが、事後アセスメントでムセがあるとでてきたデーターがあるのですが、聞き取りが悪いのでしょうか?
  • 利用者に歯が少ししかないから、歯ブラシを家族が買ってくれないと言われるのですが家族にどのように話したら良いでしょうか?
  • 食べていることを忘れてしまう認知症のかたに、食べさせるためにはどのような対処をすれば良いのでしょうか?
  • 認知症の方に入れ歯を作ってくれる歯医者さんはいますか?
  • 嚥下体操が誤嚥の防止になる根拠を教えてください。
  • 胃瘻で長く口から食べていないのですが、摂食・嚥下療法で食べられるようになるのですか?
  • パーキンソン患者さんの口腔ケアと摂食指導について教えてください。
  • 嚥下障害のある方の口腔ケア中の唾液の誤嚥が心配です。
  • 口腔ケアをしてあげたいけど、経済的な問題のある方も沢山いるのですが
このような質問に対しても、医学的にかつ現実的に答えられるように少しずつ勉強していただきたいと思います。

 今回、千葉県歯科衛生士会にて3回の口腔機能向上のスキルアップ研修の講師を依頼されました。7月から1年間で3回の研修を受けて修了書が出る講習会です。このメンバー内でネットワークを形成して千葉県内全域の指導者を養成して現場での問題点を解決していきたいと思います。
千葉市まで来られない方もいますので、柏歯科医師会にて近隣の事業所介護職種(歯科衛生士だけではなく介護職全般)で希望のある方に対して、同じ研修会を開催して、実際にどのようにプログラムを組み、アセスメントの記入も指導できる口腔ケア専門職を育成していきます。
また、地域包括支援センターの運営協議会・介護保険運営協議会・健康福祉審議会にも歯科医師の代表として参加して、地域高齢者の『食によるまちづくり』を形成していきたと思います。

柏歯科医師会 地域保健医療委員会 理事 大石善也