地域で言語聴覚士ができること

〜 当院の試み 〜

ST: 吉田   

<地域に飛びこんで>
 当院に言語聴覚療法ができて3年目になります。地域の現状を知らずに在宅に飛びこんだ私は、戸惑いながらも患者さんに喜んで頂けるリハビリ何かと試行錯誤の連続でした。病院に勤務していた時は訪問のリハビリを行うことに実感が沸きませんでした。しかし訪問リハビリを行うようになってからは、患者さんの生活に役立つリハビリを重視するようになりました。

 当院は有床診療所で外来・入院のリハビリテーション、通所リハビリテーション、デイサービス、訪問リハビリ、訪問介護、訪問ヘルパーなど地域医療と高齢者介護の立場から患者さんの支援を行っています。私が担当しているのは、外来・入院のリハビリテーション、デイサービスでのグループ嚥下訓練及び食事観察、高齢者施設や患者さんのお宅に伺う訪問リハビリです。実際に訪問すると、言語聴覚士(以下ST)のリハビリを受けたことがない方や入院中はリハビリを受けていても退院後は受けていない方が多く見られました。地域にはSTの訪問リハビリを受けられずに生活している場合が多いのです。

<言語聴覚士ってどんな仕事?>
 言語聴覚士(ST)は、発声、発音や言語・聴覚機能に障害がある方に検査を行ってリハビリをします。患者さんやご家族を含めた指導や助言も行います。コミュニケーション障害の維持・向上を図りますが、障害された面だけを見るのではなく、残された機能をどうしたら活かせるかを考えます。また患者さんやご家族が社会に関わっていくのを後押しする役割もあります。

 言語聴覚士法によると医師や歯科医師の指示の下で嚥下訓練を行える数少ない職種のひとりです。コミュニケーションの質を高めると同時に「食べる」ための支援にも大きな役割を担っています。

 平成16年4月から医療保険上でSTの訪問リハビリが認められました。在宅という新しい分野で専門性を活かして地域にサービスができるようになりました。

<まず、できることから>
 当院でSTのリハビリを受けた方は、脳血管障害による失語症(聴く・話す・読む・書く障害)、構音障害(発音障害)、高次脳機能障害(認知・行動・注意などの障害)、

 認知症やパーキンソン病などの神経・筋疾患による構音障害などが中心です。これらのほとんどの方に摂食・嚥下障害がありました。特に訪問では摂食・嚥下障害のリハビリ(以下嚥下リハ)に携わる機会が増加しています。

 嚥下リハがことばのリハビリと異なる点は誤嚥や窒息といった生命の危険を伴うことです。訪問では「病院と同じようなリスク管理が難しい」「十分な設備がない」と言われています。患者さんのお宅にはいつも医療従事者がいるとは限りません。患者さんやご家族と良く話し合い、安全に配慮したリハビリを進めることが重要だと思います。

 嚥下リハをはじめるにあたり、食事の環境の工夫やご家族へのアドバイスだけでも、患者さんのむせが軽減して食べやすくなることがあります。まずできることからはじめていくことが大切です。

<食べる口としゃべる口をつくる>
 STが行う嚥下リハには、食べ物を使わない基礎訓練(間接訓練)と食べ物を使う訓練(直接訓練)があります。訪問では、呼吸や発音・発声訓練、口・舌・頬の運動やマッサージなどの間接訓練を中心に行っています。摂食・嚥下障害の方は口腔内の状態が悪いケースが多く、口腔ケアの必要性をあらためて感じます。口腔衛生の専門である歯科衛生士と患者さんの嚥下リハを交代で行うケースがあります。口腔ケアの重要性は多くの著書に書かれているように誤嚥性肺炎の予防だけでなく、「口から食べる」準備でもあります。食べる器官はしゃべる器官でもあるため、声を出して口を動かすことが「食べる」ためのトレーニングにもなるのです。

<地域の嚥下リハもチームアプローチで!>
 当院では日常生活や嚥下リハでの誤嚥や窒息のリスクをできるだけ回避するために、訪問歯科医師と連携をとりながら嚥下評価を行っています。歯科医師による嚥下内視鏡検査が可能になりました。管理栄養士が用意した数種類の食べ物を患者さんに食べてもらいます。その時に飲み込みの状態や誤嚥の有無、食べるときの正しい姿勢、適切な食形態やどれくらいの1口量であれば安全に飲み込めるかなどを調べます。

 食形態の調節が必要な場合は管理栄養士が訪問して、飲み込みやすい食事の作り方や食材などを詳しく説明します。理学療法士は患者さんの姿勢のとり方や車椅子の選択などを行います。肺理学療法でも嚥下リハには欠かせない存在です。

 患者さんには大勢のスタッフが関わっています。地域ではスタッフ全員が同じ施設から訪問するとは限らず、カンファレンスなどの情報交換が難しい状況です。できるだけ連携のとりにくさを解消するため、情報交換が行える連携ノートを作成しました。ご家族や訪問したスタッフがいつでも閲覧できるように患者さんのお宅に置いてあります。

 最近では、摂食・嚥下障害に関心のあるスタッフが増えました。訪問先で食介護を行う介護職員向けの摂食・嚥下に関する勉強会を行うことがあります。多職種が摂食・嚥下に関心を寄せることで患者さんへの対応がスムーズになりました。患者さんが美味しくご飯が食べられるようにスタッフが熱意を持って取り組めば、効果的な結果に結びつくと考えています。

<おわりに>
 当院には嚥下専門の医師はいません。また嚥下造影の設備もありません。病院の設備に比べれば決して恵まれている環境とは言えません。しかし「食べられるようになりたい」「食べたい」という要望に応えるため、ようやく嚥下リハが可能になってきました。胃廔の方が楽しみ程度を口から食べられるようになったり、ペースト食しか食べられなかった方が形のある柔らかいものが食べられるようになったりと、良くなるケースがあります。逆に進行する病気の方は可能な限り口から食べることを目標にして、食形態を少しずつ落していくケースもあります。「こんなの食べるんだったら生きてる意味ないよ」と患者さんに言われることがあります。やむを得ず食形態のレベルを下げる時、患者さんの楽しみを奪っているのかもしれないとジレンマに陥ることがあります。壁にぶつかることは日常ですが、これからも患者さんの支援を模索し続けていきたいと思います。当院の訪問嚥下リハは始まったばかりです。