モーニングスローフード作戦について

【事業名】
モーニングスローフード作戦 〜心と行動に繋がる食育〜
(小・中学生の朝食実態調査による食育モチベーション向上システムの構築)

【実施組織】
(社)千葉県柏歯科医師会
柏市役所健康推進課:歯科栄養システム検討会・生活習慣病予防検討会
柏市教育委員会 学校教育部 学校保健課
柏市内全小・中学校(教師・保健主事・養護教論・栄養士:600人)
柏市内全小学校 2学年  中学校 1学年  13000人児童
財団法人8020推進財団 平成18年度 歯科保健活動事業

【事業の目的及び期待される成果】
 近年、私たちをとりまく『食環境』は大きく変化し、子供の肥満やアレルギー、味覚障害等『食』に対する認識不足が将来に与える影響に対して危機感がある。

 現在、1日の始まりである朝食の欠食率は小・中学生で14〜20%を認め、孤食を含めた食生活は、子供の精神状態や生活習慣病に影響を及ぼすことから、国の機関も含め教育現場でも食育の促進を啓発している。

 しかしながら、「食環境のよくない子供・家庭に対する支援・向上方法」は困難であり、食育基本法の目標値である平成22年度までに、小学生の朝食の欠食を0%にするという食育推進運動を弊害する重要な要因である。

 本研究では、朝食に課題を加えた実施アンケートを収集することで、人と人との関わり方・咀嚼の体験と意義・メタボリック症候群予防のための学童期における食育等を考察し、『食事による精神安定効果と味覚教育』『口腔機能と栄養の関係』『保護者への食育モチベーションの向上システム』の構築を歯科の分野から提案したい。

【事業内容】
 (社)柏歯科医師会では、柏市役所健康推進課との栄養システム検討会における食育分野でモーニングスローフード作戦というアンケートを実施している。小・中学生に朝食の意義を説明し、「学校の休みの日に、1度テレビを消して家族でゆっくりと朝ご飯を食べる」という課題を与えて、朝食にかける時間、摂取種類、欠食・孤食児童の朝食時の感想、家族との会話から子供の心に潜む意識調査をモデル事業として500名の生徒に試みた。

 朝食を家族とゆっくり食べるという『快の体験』と欠食や孤食という『不快の体験』のアンケート結果より、体が温まる・やる気が起きるという意見があると同時に、欠食によりイライラしたり、食に対する認識不足、本当は朝食を食べたいというような児童の意見を認めた。

 また、ゆっくり食べる必要性、つまり咀嚼時間と栄養との認識が非常に低下していることや、家族で食事をとる家庭の少なさや、主食のみの摂食状態の実態が認められた。

 今回、歯科医師会会員歯科医院にて、柏市民10000名(成人も含む)の朝食及び食行動の実態調査を新たに実施して地域の状態を把握するとともに、モーニングスローフード作戦に対して、学校保健課の協力を得て、アンケート数を13000人に増加して、食事中の家族との会話や、孤食・欠食の感想を収集して、保護者が食育に対するモチベーションを向上するシステムを構築するとともに、子供の意見からボトムアップした歯科保健教育(食育)を展開していく予定である。

【モーニングスローフード作戦の意義】
@ 学童期メタボリック症候群の予防


 メタボリックシンドロームでは、一つひとつの症状は深刻ではなくても、重複して持つと心筋梗塞などの危険性が30倍も高いとされています。1995年以降の研究で、脂肪細胞から糖尿病、高血圧、狭心症、脳梗塞の元凶になるホルモン等が分泌されていることが発見され、注目を浴びてきました。

 近年の『食環境の変化』は、すべての年代に影響を及ぼしています。子供の肥満は、十人に一人となりこの30年で2−3倍に増加し、糖尿病患者さんは5倍に増えています。厚労省も成人に準じて「ウエスト80センチ以上」で血清脂質、血圧、空腹時血糖の二つで基準値を超える場合、小児期メタボリック症候群とする診断基準を暫定的に設定しています。

 では、なぜこれほど肥満に神経質にならなければならないのでしょうか。それは、人類は度重なる飢餓に対してエネルギーを倹約して生きていけるように進化してきたため、現代の過剰な食物摂取の状態ではすぐ糖尿病になるからです。特に日本人は和食を基礎とした代謝状態で進歩してきたため、高i食(洋食)に対して他民族よりも影響を受けやすいという特徴があります。さらに、親子3代で違う食事をしているのは、世界のなかで日本人だけなのです。


 乳幼児の肥満の指標にカウプ指数という基準値があります。1歳6ヶ月ぐらいまでは、20以上の肥満でもあまり気にする必要はありませんが、3歳をすぎて運動量も多くなっているのに肥満傾向の強いお子さんは注意したほうが良いでしょう。子供のころに太っていると、肥満細胞の数が増えて、7歳くらいでは40%ですが思春期では80%近くが成人肥満に移行されますので、学童期における正しい食生活習慣の獲得が必要です。

 子供達の将来と親の今後の疾病予防を考えると、家族単位また地域で『食』に対する考え方を再考察する必要があります。メタボリックシンドロームにおける疾患は、それぞれが突然発症するのではなく、まるでドミノを倒すように最初は軽微な兆候からはじまり、最終的に重大な疾患となり私たちの生活を脅かします。このドミノをメタボリックドミノと言いますが、できるだけ上流のうちに対処する必要があります。この上流を司るのが、学童期における『食行動』であり、食行動を是正・考察することで、メタボリックシンドローム予防に繋がると考えられます。

 厚労省も2007年から「生活習慣病の発症は、子供時代の乱れた食生活と生活習慣が影響している」とされ本格的な子供の肥満予防対策に乗り出します。

A 生活習慣病と食行動

 生活習慣病の治療には、薬物療法・食事療法・運動療法・食行動療法がありますが、複数の異常の共通原因となる『食行動』を変えることで肥満体重を是正すると、メタボリックシンドロームはほとんど治ってしまいます。内臓脂肪型肥満は溜まると多くの合併症を引き起こしますが、食事・運動療法には皮下脂肪よりも反応しやすく痩せやすい特徴をもっています。

 近年の研究(2型糖尿病患者500名の食行動)によると、BMIと食行動で強い関連を認めた習慣は、朝食をとらない、満腹まで食べる、肉や魚またご飯や麺類をたっぷり食べる。イライラすると食べるなどがありました。BMIのみならず、直近の血糖値、血圧、中性脂肪、HDLコレステロールともに有意に関連した食行動は『食べる速度が速い』でありました。つまり、食形態や食内容や咀嚼時間をふくめた食行動を改善することが、自分自身が生活習慣病を予防する要因の一つであると考えられます。

 また、生活習慣や運動量などのばらつきが少ない女子大生1700名のデーターを数年がかりで解析した結果、とても早く食べる人は、とても遅く食べる人より平均5s以上、体重が重かったことが解りました。そして1日当たりの摂取カロリーは早食いの人ほど多く、その食物繊維の量は遅食いの人ほど多く摂取していました。(平成16年)

 朝食をとった方が痩せることは、米厚生省が88〜94年までの16000人のデーターからも証明されています。欠食後もドカ食いにも注意する必要があります。1日に摂取するカロリーが同じであれば、2食より3食なるべく何回にも分けて食べるほうが太りづらいということもわかっています。

 また、名古屋大学の研究(5000名:2006年7月)でも、『同じ量の摂取でも、早食いをすると、それだけで肥満を招きやすい』ことがわかりました。食べる早さが普通の人と比べて、かなり早い人は体重が4s多く、かなり遅い人は3s軽い結果を得ました。早食いのくせは、若いうちに身に付いているようです。よく噛んでゆっくり食べる習慣を子供のころから身につけましょう!

 食事や運動に比べて、肥満予防対策で飲み物に気をつける人は少ないという意識調査があります。私たちは毎日1500g飲みます。太ったかなと思ったとき、食事は76%、運動は65%の対策を考えますが、甘い飲み物を避ける人は46%でした。現在ノンカロリー飲料もありますが、甘い食品へ体が依存していきますので、お茶やミネラル水へ置き換えましょう。米国飲料協会では、3年後までに小・中学校での自販機や食堂でのコカ・コーラなどの清涼飲料水の販売を全面停止することを発表しました。

 もう一つ大切なことに『生活時間の変化』があります。夜型生活の家庭が増え、子供の寝る時間が遅くなったため、夜食をとる傾向が多くなり、摂取したカロリーが消費されにくくなります。共稼ぎの家庭が増えたことも、できあいの食品ですませたり、肉料理が多くなります。子供が一人であるいは祖父母とおやつなどを食べることが多くなり、食べ過ぎにつながります。

また、睡眠時間の短い人ほど太る傾向が強く、5時間で50%、6時間で23%も肥満の傾向があります。(コロンビア大学 平成16年)

 ある有名な中・高進学校で、中学受験で塾通いをしていた生徒の食生活を是正したグループとそうでないグループの大学進学成績を考察した結果、食と運動の両面を是正した生徒が有意に好成績を獲得しました。今、忙しい家庭(塾やお母さんの仕事)も将来このモースロ作戦を思い出して、いつの日か、『食環境』を良くすることで、精神と健康状態が良くなると思われます。


  肥満の人は歯周病に注意してください。肥満者は約1.5倍歯周病にかかりやすくなります。糖尿病の第6番目の合併症として歯周病が認められました。高血糖により、歯の周辺の細い血管が障害されたり、脂肪細胞から分泌される物質が歯を支える骨を溶かしたり、歯周病菌が繁殖しやすい環境などが原因となりますが、歯周病を治せば糖尿病が治り、糖尿病を治せば歯周病が治るというデーターが現在沢山でています。また、糖尿病患者は重度の歯周病になり、早期から義歯を装着して硬いものは食べられなくなります。

 今回のモースロ作戦の中学生部門では、ダイエットに関心があるか、またダイエットをしたときの動機と負の感想についての収集も行います。成長期におけるダイエットは非常に危険です。最近は小学4年生くらいから痩身にたいする関心度が芽生えて、そのお母さんの世代(20〜30代の女性)でもBMIが18.5未満の人の割合は、この20年で約2倍になっています。

B 子供の潜在意識の抽出と子供だけの食育会議

 「朝食をたべると体に良い」あるいは「欠食すると体に悪いからダメ」という知識伝達型の健康教育では行動変容しにくく、生徒の『気づき』を重視した健康学習が良いと考えられます。そのために食育体験教育では「芋ほり体験」や「農業関係者とのふれあい」がります。

 今回のモーニングスローフード作戦では、朝食に課題を与えるという先行刺激を与えた後に、体験するオペラント刺激により、その行動が増加・継続する期待を考えております。その結果をさらに児童にフィードバックして、負の体験をした児童にも、その感想と解決策を考えるという教育『考える食育』に対して五感をとうして体験してもらいたいと思います。

 子供の肥満は3歳時の生活習慣の乱れが原因というデーターがあります。3歳児に「朝食を時々食べる」「おやつの時間を決めていない」と答えたグループは小学4年生時に肥満になる例が1,2〜1,8倍多い(平成15年 1万人)ことが示されました。家族に対して、どのように介入するかは、難しい問題ですが、味覚形成時期と生活習慣獲得時期である、学童期における食育を地域でどのように勧めていくかが、重要となります。

C 味覚の言語化と考える食育



 児童の食に対する潜在意識を言語化することで、食に対する現実的な考えを把握して、負から正へのイメージに変容させる指導方法を考察します。
 児童が日常考えていること(例えば、朝早く起きてお母さんが作る食事に対して心で感謝している等)で正のイメージを明示、負のイメージ(一人で食べると寂しかった等)から保護者の食育向上システムを構築するとともに、児童が集団における食育会議・解決策模索過程において、行動が自発的に発生する成果を期待しています。

D 口腔は感覚器官であるから清潔にしましょう!



 赤ちゃんは、初めて出会う物をまず口に入れて試します。私たちは『生きることは食べることだ』という学習を、口腔をとうして本能的に始めます。そして、加齢とともに虫歯・歯周病・口腔乾燥症・生活習慣病・低栄養をへて、高齢者は、最後の楽しみの食事を、口から食べられなくなり終を迎えます。口腔機能は『食』に対して、五感を味わう大切な器官です。

E 食行動には精神安定効果があり、生活習慣の乱れを表す指標となる!

 食事は栄養だけではなく『家族の絆を養う心の栄養』を摂る意義があります。 精神状態や生活の乱れは必ず食環境の悪化をもたらします。また逆に食行動を是正することで、行動の乱れを改善させる効果があります。

 現在、5−6%の児童に自閉的な入力障害(アスペルガー症候群)を認めます。この症候群は、『人と人との関わりかた』が下手であり、その結果パニックを生じるという特徴があります。色々な年代のコミュニケーションの場である「食卓」は価値観や問題解決の対処を学ぶ場所でもあります。現に、食材を用意して、食を作る段階から児童と接することにより、登校拒否や精神状態が改善したケースを多く認め、このような児童は食環境を是正することで、その問題行動を減少させる効果があります。

 食行動を家族・地域単位で考え、生活リズムや習慣を是正することが、キレル子供や犯罪の少ない社会を形成する上で重要な要因であります。

F 食育チームアプローチとは!

 従来の支援方法は左図のように、連携組織があるにもかかわらず、それぞれの機関が独自に子供達を支援してきました。今回のモーニングスローフード作戦では、教育委員会・学校(養護教論、教師、栄養士)・農業関係者・行政・児童・家庭・歯科医師会等すべてがモースロの実施組織であることが特徴です。どの機関もそれぞれの特徴(プランニング・収集・現場での会議)を生かして全体が『食環境の是正』という1つの志を持って実施します。

 また、本作戦では、大人が黒子となり『朝食を食べなくてはいけない!』という罪を強化する指導ではなく、欠食の児童や家庭にも十分配慮して、『心に残り気づかせるシステムを構築』することが目的となります。子供の精神状態を安定させ、将来の疾病を予防するためには『昔の生活にもどればいいのです!』そして効果的な方法は、「食べ物を食べ物に置き換える:ミールレプレイスメント」つまり『和食のすすめ』が大切です。『家族や仲間と一緒においしい和食をゆっくりと食べる』ことを気づかせるようなモチベーションシステムが構築されることを望みます。

 30年前の日本には、糖尿病やキレル子供はごくわずかでした。それは最も健康的な食品である大豆たんぱく源を摂取しており、社会もストレスが少なかったからです。今回、児童13000人、その教師350人、栄養士・養護教論・保健主事240名、教育委員会、健康推進課、歯科医師会が2回の体験アンケートからチームアプローチで『考える食育』を立ち上げてみましょう!

柏歯科医師会 地域保健医療担当理事 大石善也    



略歴

大石 善也   おおいし よしや
  千葉県柏市開業 (大石歯科医院)
  歯学博士  
  1984年 日本大学 松戸歯学部卒業
    1988年 徳島大学 歯学部口腔外科学大学院終了
日本大学 松戸歯学部病理学専任講師
千葉県   柏市にて開業
  主研究テーマ 摂食・嚥下機能支援
染色体異常と唇顎口蓋裂
口腔癌疾患の治療
    論文 各種抗癌剤の染色体に及ぼす影響
Cancer.61(9), 1741-1748(1988)
 
『食』に対する研究会: ごっくんちょ研究会 代表

 ごっくんちょとは、口から美味しく、楽しく、安全に食べることへの支援を目的とし、少しずつだが多職種から人・知恵・力を持ち寄って地域保健医療を啓発し『食によるまちづくり』が形成されるように取り組む研究会です。

 具体的には、食育・歯科保健教育、障害者の食べる機能の獲得・予防歯科、精神障害者に対する歯科治療、介護予防・新予防メニュー口腔機能の向上、摂食・嚥下機能支援、共に生きる認知症ケア、癌治療時の摂食支援、緩和ケアに対して『食支援』を行う機関です。

 このような活動が、2年後に設立される柏市総合的福祉施設のケア内容として市民に社会的貢献をするために、下記の仕事をしております。

 柏市健康福祉審議会・介護保険運営協議会・地域包括支援センター歯科代表、地域保健医療委員会・柏市歯科医師会附属歯科介護支援センター理事、口腔保健センター設立委員会 委員長、柏市学校保健会理事、柏市学校給食運営委員会アドバイザー、千葉県歯科医師会予備代議員・心身障害者巡回指導医、日本大学松戸歯学部病理学専任講師