1、事業名 :モーニングスローフード作戦 〜心と行動に繋がる食育〜
(小・中学生の朝食実態調査による食育モチベーション向上システムの構築)

2、申請者名:(社)千葉県柏歯科医師会

3、実施組織:(社)千葉県柏歯科医師会

柏市保健福祉部健康推進課
柏市教育委員会 学校教育部 学校保健課

4、事業の概要

小児生活習慣病を予防し、家庭での食行動を是正する地域食育モチベーション向上システムを構築する目的で、(社)柏歯科医師会は、柏市健康福祉部健康推進課との合同分科会(歯科・栄養健康づくりシステム検討会 食育分科会)にてモーニングスローフード作戦という課題体験アンケートを柏市教育委員会学校教育部学校保健課の協力のもと、千葉県柏市(人口39万人)内、全小・中学校(61校9471人)の児童生徒を対象に検討した。
家族と食べた児童生徒の食事中の会話内容および欠食・孤食者には通常の食事での会話内容を記述させ、食事中の会話内容を前向きな話題と否定的な話題の2項目に分類して、課題学習の食行動との相関関係を疫学的に解析した。その結果、正しい食行動は前向きな話題と相関することが認められた。

5、事業の内容

小・中学生児童に朝食の意義を担任から説明(知識伝達型教育)後、朝食の重要性を家族に伝達し「日曜日に、テレビを消して家族でゆっくりと朝ごはんを食べる」という課題体験学習を与え、月曜日に各学校にて食行動、食事中の会話と課題学習の感想についてアンケートを収集した。

表1:朝食の意義

○ 朝ごはんをゆっくり良く噛んで食べると身体にいいのです。家の人にも教えてあげましょう。

1、朝食摂取により、身体の代謝量が上昇して太りにくい体質となり生活習慣病予防となります。

2、体内温度や血糖値が上がって身体や頭の働きがよくなり、意識レベルや集中力が向上します。   精神状態も安定します。

3、成長期の欠食は、発育不良や糖尿病の要因となります。

4、よく噛んで食べると、顎や口の周りの筋肉が鍛えられ、魅力的な表情となりダイエット効果もあ
  ります。

表2:食行動アンケート質問事項

1、伝達  :朝ごはんをゆっくりよく噛んで食べると身体に良いことを家族に話しましたか?

2、就寝時間:土曜日の夜は何時に寝ましたか?

3、欠食  :日曜日の朝ごはんを食べましたか?

4、孤食  :日曜日の朝ごはんは誰と食べましたか?

5、摂食時間:日曜日の朝ご飯を食べていた時間は何分ですか?

6、主観的摂食速度  :朝ごはんをよく噛んで食べましたか?

7、テレビ視聴の有無 :朝ごはんの時テレビをつけましたか?

8、家族との会話の有無:朝ごはんの時家族と話しましたか?

○中学校のみ追加質問事項

9、痩身への関心度    :ダイエットに関心がありますか?

10、ダイエット経験の有無:ダイエットをしたことはありますか?

○朝食時の家族との会話内容(記述式)

1、日曜日の朝ごはんの時、家族の人とどのような話をしましたか?

2、孤食や欠食の場合は、普段の食事での家族との会話内容を書いてください。

3、朝ごはんや健康のことについて、困っていること、考えていることを書いてください。

さらに家族との会話内容を表3で示すように10項目に分類し、1〜5を正(楽しい・前向き)の話題、6〜10を負(暗い・否定的な)の話題として、各食行動との相関関係を解析した。


表3 家族との正・負の話題

1、楽しかった・うれしかった・おもしろかった・安心した落ち着いた気持ちの会話

2、自分のこと(クラブ活動・習い事・学校・今後の予定)や、家族に関する会話

3、食に関する会話

4、家族以外の会話内容・その他

5、テレビに関する会話

6、食欲がない・眠い

7、未記入

8、何も話さない・ほとんど話さない・会話が少ない

9、身体・精神的影響の表現(疲れた・寂しい・嫌な気持ち)に関する会話

10、気になる回答(極端な負の意見:身体・精神的影響の強い表現の回答)

○以上10項目中、1〜5を前向きな話題、6〜10を否定的な話題とした。


6、実施後の評価

近年、子どもを取り巻く食環境は大きく変化し、肥満傾向児を10%前後認める1)。小・中学生の血糖値や中性脂肪には大きな変化を認めないが、血中コレステロール値が200mg/dl以上の高脂血症児童が2割に近づいているという報告2)もあり、『食』に対する認識不足が将来に与える影響に対して危機感がある。

朝食摂取は単に血糖上昇という生理的な意味だけではなく、精神面が安定したことが報告されている。3)また、社会問題とされる「キレる」精神状態は、食事の不規則性(欠食)と高カロリーな糖質食品の過剰摂取から起こる血糖値の乱高下も要因となる。一方、食べる速度と肥満の関連は多くの論文で述べられており4)5)スローフードの重要性が提唱されている。6)7)

今回の研究では、知識伝達型教育の効果が食行動にどの程度反映されるかという点と課題体験学習(朝食の摂取とスローフード)後のアンケート調査から、食事中の会話と食行動との関連性について疫学的解析を試みた。

図1 小学校各学年の人数分布

図2 中学校各学年の人数分布

小学校低学年から1学年、高学年から1学年、中学校から1学年を抽出し図1・2の人数分布を対象とした。小学校3年生と6年生、中学校1年生が多く抽出されたが、小学校の低学年と高学年の比率はほぼ同じであり、柏市内全小・中学生の3人に1人のデーターが抽出できた。

4 小学校 学年別欠食者数

 

1年

2年

3年

4年

5年

6年

総計

欠食者数

19

56

25

92

208

欠食率(%

3.7

2.5

2.4

2.6

2.3

4.4

3.1

対象者数

219

769

2319

965

343

2089

6704

表5 中学校 学年別欠食者数

 

1年

2

3

総計

欠食者数

138

29

51

218

欠食率(%)

6.6

8.5

15.5

7.9

対象者数

2095

342

330

2767

家族と一緒に朝ごはんを食べる(共食)という課題学習を与えたにもかかわらず、小学校では3.1%中学校では7.9%の欠食者を認めた。朝食の重要性を担任教師の裁量にて知識伝達型教育を実施したが、学年が上がるにつれて欠食率が増加しており、食行動を是正(行動変容)するには知識伝達型教育では限界があると考えられる。

 そこで今回のモーニングスローフード作戦では、クラス単位で日曜日に家族といっしょに朝食をゆっくりと食べるという五感を使う体験学習後に、食行動アンケートとこの課題学習に対する感想を収集して、『考える食育教材』(添付資料)を作成し、欠食・孤食者への動機付けを試みた。

食行動と会話との関係

図3 小学校 摂食時間と会話との関係

91%

89%

86%

80%

75%

N=4169

生活習慣病予防(過食)の観点より、満腹中枢が刺激される20分以上の摂食時間が必要と考えられる。『ゆっくりとよく噛んで食べる』という課題を与え、摂食時間が長くなると前向きな話題が増加することが小学生4169人(この質問項目のみ、摂食時間を摂食時刻と誤った子どもが多く、有効回答人数が減少した:実施人数6704人)の結果から示されたことで、正しい食行動が前向きな話題と相関することが認められた。

 この摂食時間は咀嚼時間であり、その基盤を支える歯科医療者の健康啓発は児童の前向きな話題、つまり精神的影響(ストレスや家族との不調和)と生活習慣病を予防することにも繋がると考えられる。

図4 中学校 食行動(孤食・家族との会話の有無・主観的摂食速度)と会話との関係

85%

71%

92%

62%

72%

82%

表6 小・中学生孤食・家族との会話の有無・主観的摂食速度の比率

孤食 家族との会話なし 主観的摂食速度(ゆっくり噛まなかった)
小学生

中学生
19.3%

48.3%
19.0%

18.7%
21.9%

17.3%

表6に示すように、中学生になると孤食の割合、主観的摂食速度が小学生に比較して顕著に増加したが、小学校においても家族との会話がかなり減少していることが認められた。しかしながら、図4に示すように中学生での食行動と会話との関係でも、正しい食行動(共食・家族との会話・摂食時間)と前向きな話題が相関することが疫学的に証明された。


7、今後の課題

 今回の研究にて、我々は食育健康啓発において知識伝達型教育での行動変容がむずかしい事と正しい食行動を実施すると前向きな話題(精神的に良い感情の向上)が増加することを確認した。そこで本研究(第1回アンケート)後に『考える食育学習教材』(添付資料)を作成し、学校全体としての生徒の感想と第1回モーニングスローフード作戦結果を再度同じ生徒に対して学習をさせて第2アンケートを実施した。

表7 第2アンケート:記述式

1、ゆっくりよくかんで食べると、どんなよいことがありますか?

2、朝ごはんをゆっくりよくかんで食べると体によいことを家の人に話した人はどんなふうになりますか?

3、どうしたらみんなが朝ごはんを食べることができると思いますか?(朝食欠食解決策)

図5 地域包括的食育教育啓発システム

 知識伝達型教育の欠点は、図5に示すように食生活無関心群、食に悩みがある群(例えば野菜を食べなくてはいけないと考えているが野菜嫌いである)や食に悩みがない群(食環境の満足度は無いが食事改善を考えていない)に対しての行動変容効果が低いことであると考え、これらのグループへの健康教育を普及する目的で添付資料(考える学習)を作成して、生徒に気づきを与える学習を試みた。従来、食行動と認知・学習・精神・身体的影響との関連性は多くの報告がある。今回、食行動と会話の関連性について疫学的に解析することで、生徒児童の動機づけから朝食欠食率が向上することを期待している。
 食育啓発活動において、家庭での食生活や食に対する意識の向上の行動変容は非常に困難なことであるが、今回の結果をもとに各学校クラス単位で食育活動をすることは小児生活習慣病予防啓発においても効率的であると思われる。また、9471名の生徒からそれぞれの家庭に食育を伝達することで家庭での食生活が向上したならば、その親であるメタボリックシンドローム予備軍に対して、費用対効果の高い健康推進啓発も期待できる可能性がある。
  表7に示す第2アンケートは、食育基本法の目標値である平成22年度までに小学生の朝食の欠食率を0%にするという食育推進運動を先行して子ども達の意見からボトムアップした食育にて解決策を考える目的で実施し、現在集計中である。

図6 小学校食行動結果:伝達と前向きな話題との関係

図7 中学校食行動結果 伝達と前向きな話題との関係

現時点(平成19年3月)での結果では、『朝ごはんをゆっくりとかんで食べることは体にいいのです』という課題に対して、家族へ伝達をしていない児童において食行動に問題があり、伝達無しの生徒の食習慣を把握すると、否定的な話題や精神面に強く影響している傾向を認めている(図6・7・考える食育教材)。

さらに、どの食行動を是正すればすべての食行動(家庭での食行動の改善)が良くなるかを、

全食行動の相関関係(120種類の相関関係)の中から現在検索中である。そして表7の第2アンケート結果を解析して、児童の潜在的な思考を参考にして、包括的な地域食育モデル(食行動を是正すると、その後の人生や会話が楽しくなる)を作成中であり次年度には報告できると考えられる。



文献

1)        18年度学校保健統計調査 肥満傾向児の出現率

2)        東京都予防医学協会 こどもの健診 平成14年度糖尿病健診

3)        Jacoby,E,R. et al:When science and politics listen to each other: good        prospects from a new school breakfast program in Peru,            Am.J.Nutr.,67(supple),795-797S(1998)

4)        武井典子:就業者の食習慣と肥満と生活習慣のリスク要因との関連性について,
       口腔衛生会誌 J.Dent.Hlth.51:702−703,2001

5)        武井典子:咀嚼と肥満の関連性に関する研究 小学生の肥満と生活習慣との関連性     と健康教育の効果について, 口腔衛生会誌56 (4),2006

6)        多田紀夫:メタボリックシンドロームの治療:食事療法 Prog Med 24           (9):2242-2248,2004.

7)        大野 誠:肥満症につながるライフスタイル,からだの科学,184, 44−49 (1     995)