ラジオNIKKEI『歯科医の時間』収録内容

【放送日】 ラジオNIKKEI   平成17年11月15日(火)  21:15−21:30
BSラジオNIKKEI(BSデジタル放送301ch)   15:05〜15:20/21:05〜21:20
【演題】 地域における摂食・嚥下機能支援
【所属】 千葉県歯科医師会 会員 大石善也

 〜地域密着型栄養サポートチームをつくろう〜

 施設・病院・在宅における要介護高齢者や障害者を訪問すると、胃瘻や経管栄養、いわゆるチューブ栄養から一日の栄養必要摂取量を注入されているにもかかわらず低栄養で元気のない方、また気管切開をしておりいつもゼロゼロして吸引をしている方、化学療法による口内炎にて食事がとれない方、ターミナルの方で口腔ケアがなされていない方、重度疾患にて意識が混濁している方、障害者や神経疾患難病の方、認知症の方などさまざまな患者さんを認めます。

 我々医療従事者は、生命の危険のある患者さんには医療体系が充実しておりますが、慢性疾患や嚥下障害者に対しては、その手段とマンパワーがないために放置され日常業務のなかで対処している。特に胃瘻を設置するまでは十分な説明がありますが設置後に、リスク管理をしながら数%でも口から食べる事を回復させている医療機関は皆無に等しいのが現状です。

 近年、医療・介護・福祉関係者のなかで『摂食と栄養管理』への関心が高まっており、摂食・嚥下機能支援にどのように取り組むかが問題となっている。この支援は、主治医が中心で縦の繋がりを主とする従来の医療体系から、職種間の壁を取り払って横の繋がりを重視する医療体系いわゆる『チームアプローチ』を成功させなければ、要介護者や障害者に真の意味での支援は出来ないと思われる。

 〜柏歯科医師会での取り組み〜

 今回、千葉県柏市において地域に密着した摂食・嚥下機能支援を浸透させて欲しいという依頼があり、それをどのように構築するかを考えた。一般的な手法つまり歯科医師会内で支援グループを育成して、その事業を他の病院・施設に紹介してトップダウンで展開する事業体型では、不十分であり失敗はしないが成功もしないと考えた。なぜなら、摂食・嚥下支援の内容や効果を知らずに上からの業務命令でこの仕事が波及しても、よけいな仕事がふえるとか、職員間での支援に対する情熱の温度差があり、障害者や要介護高齢者をとりまく環境は改善されないと思われた。また、摂食・嚥下を少しかじった人が自己満足のために支援しに行くような悪循環をも起こしかねない。

 そこでまず横の連携を充実させるために、本年度より多職種向けの摂食・嚥下研究会『ごっくんちょ』を立ち上げました。研修内容を第一に要介護高齢者への支援、第二に介護食への理解、第三に障害者への支援、第四に食育とし、年間を通じて多職種とともに研修し、ときには、介護食を調理して全員で食べてみたり、トロミ剤の味の変化を収集してり、楽しみながら交流を持つようにしております。また、地域に浸透するために教科書的な研修会ではなく、『現実にどう対処するか?』・『リスク管理をどう行うか?』の2点を基本的な考え方として、地域密着型栄養サポートチームを構築することとした。

 〜嚥下障害者の実態と効果〜

 嚥下障害の原疾患として最も多い脳卒中は、毎年50万人が発症し、その6ヶ月後には11%の方に嚥下障害という後遺症が残ります。つまり毎年5〜6万人発生する嚥下障害者対する摂食・嚥下リハビリテーションはまだ十分に行われていないということになります。しかしながら口腔機能回復リハビリを行えば、その後遺症の半数は減少出来ると考えております、万一胃瘻になった方も唾液を飲み込めれば介護食にて食塊を調整し、色々な食物を摂取することができます。

 気管切開をしている方にも、口腔ケアや体位ドレナージにて吸引回数を減少させることが可能である。癌で化学療法や放射線治療をうける際の副作用として重度の口内炎がある。これも直接的な刺激はさけられないが、術前より口腔ケアを開始することにより二次的細菌感染を予防して、患者さんの苦痛を軽減することが出来る。

 また最近の取り組みとして、急性期の重度脳血管障害にて意識が回復しない患者に対して、口腔ケア、顔面マッサージ、理学療法、温熱療法、味覚刺激などで五感をとうして意識の回復に効果が望めるか検討中であります。

 摂食機能は、出生後に獲得する機能でありますが離乳時期より摂食・嚥下発達療法を施行することにより、障害児の食べる機能を獲得することができる。認知症の摂食にはさまざまな要素があるが、早期から介入し十分行動を観察することにより最期のワンスプーンまで食事を食べてもらいたいと考えている。

 以上のほかに、ICUの口腔ケアやヘルパーさんとともに食事介助方法を工夫するなど、さまざまな支援を展開できると思われる。しかしながら、口腔ケアや嚥下リハビリを業務に取り込む時間がないのが現状でございます。

 我々の研究会では、この点を避けずに逆に重点問題として解決策を模索している。X線透視装置を受けられない方には直接ベットサイドに内視鏡を持参して誤嚥を確認したり、口腔ケアや嚥下リハビリに時間をかけられない方には、歯科医師と歯科衛生士が訪問して行い、その施設・病院には短時間でできる口腔ケアや効率的な道具・薬品を紹介してます。キザミ食には軟キザミとろみで対処し現実になるべく対処しながら、少しずつ地域啓発活動を行える各職種のキーマンを育成している。

 〜今後の取り組みについて〜

 平成18年度介護保険新予防メニューである機能的口腔ケアに対して、毎月50名の会員と歯科衛生士が研修しております。 また、柏市にて平成19年度完成予定の柏市総合的保健医療福祉施設に栄養サポート相談室を設置して、この研究会で得られた情報を収集して、市民からの相談と各種疾患の予防と嚥下療法を行う拠点にしたいと考えている。 さらに、口腔リハビリの一つである食前の体操を独自に作製中である。これは元気高齢者から嚥下障害者および認知症にまで使用できる体操として『ゴックン体操』と称して行政の介護予防活動と合同で波及していこうと考えてます。

 今後の目標として、多職種のかたと摂食・嚥下支援というパイプを構築して、それぞれの職種をすべてパイプでつなぎ円上とした中に、要介護高齢者や障害者をつつみこんでリスク管理をしながら、少しずつ内容のある支援体制を作りたいと思っている。 そのために、今回開設した研究会にてより多くの情報を収集して、各職種における摂食・嚥下療法のクリニカルパス(疾患の予防や早期発見、治療にたいする道しるべ)を作製して、地域ぐるみで支援する人の育成と交流の場として研究会を盛り上げて行きたいと考えている。

 全国的にもこのように地域ぐるみで支援する活動はまだ少なく、特に行政と合同で取り組んでいる研究会は、非常にめずらしいと思われる。ぜひ、障害者を取り巻く環境が良くなり、『安全に、美味しく、楽しく食事ができる』口から食べる地域支援を構築したいと思います。

(社)柏歯科医師会 衛生委員会 医療班 大石善也